人の暮らし、そして家に寄り添う。
家族の成長やありのままの自然を愛でる庭づくり
庭がもたらす豊かなライフスタイルや
家族の変化に合わせた自由な発想の庭づくりについて、
それぞれのこだわりや意識していることについて伺いました。
「庭」が家にもたらす効果とは
―まず初めに家や家族にとって「庭」はどういう存在だと考えていますか?
宮本さん:「家庭」という言葉には「庭」の文字が入っていますよね。それくらい、本来、家に庭があるのは自然なことなんです。家と庭、この2つの調和がとれて「家庭」と言えるのではないでしょうか。誰でも、自然の中に身を置くと心地よいですよね。家庭にとってその心地よさはとても大切。家を建てる時には、庭づくりもとても重要になります。
―荒谷さんはどういうお考えですか?
荒谷さん:家の完成を「100%」と考えた場合、庭ができることでその完成度は「120%」になると思います。例えば、外観の印象を植物によって変えることもできますし、家の中へ視点を移してみても、室内から見える景色を整えていくことで、家がより居心地のよい場所になるでしょう。
―たしかにお二人がおっしゃるように、家や家族にとって庭は欠かせない存在かもしれません。では実際に庭づくりをオーダーする時に、私たちはどういったことをお伝えすればよいのか。お二人はプロとしてどのようにヒアリングされているのでしょうか。
宮本さん:まずは、オーナー様のライフスタイルを知ることから始めます。
どんなものが好きでどんな夢を持っているのか、オーナー様ご家族が心地よいと感じるのはどんなものなのか。子供の頃の思い出や幸せ感、海外に行ったり住んだりしたことはあるか、あるならその体験がどんなものだったかを尋ねることもあります。そういった情報を共有していただき、できる限りオーナー様のライフスタイルに寄り添うよう、具体的なガーデンプランを考えていきます。
荒谷さん:私はオーナー様のご予算面に配慮しながら、その家や土地に合った庭をつくることを意識しています。どんなに植物が育ちづらい環境でも、やはり部屋から緑が見えるのと見えないのとでは大きな違いがあると思うので、工夫を凝らします。予算と完成度の両面で「良い庭」だと思ってもらえるようにと考えています。
宮本さん:庭と共に暮らすことは、心を豊かにするという側面も持っています。そんな「庭が持つ意味」をオーナー様に気づいていただくことも、私たちの仕事かもしれませんね。
荒谷さん:その通りだと思います。オーナー様が家づくりの段階で、窓から見える外の景色まで想像することは難しいので、そこは私たちガーデンデザイナーの役割だと思っています。
庭×子育て 五感を育む庭と植物
―宮本さんと荒谷さんがこれまで手がけた庭を見せていただいたのですが、そこで暮らす人の思いや願いが緻密に組み込まれていますよね。それぞれに個性があり、庭で過ごす時間は恵みあるものになるだろうと感じました。
宮本さん:「お家をもっと素敵に」、「暮らしを彩る」、「植物と暮らす」、「庭育」をコンセプトにしています。例えば自分が子供の頃、庭に何があったことが嬉しかったかなと考えた時に、ブランコを思い出しました。父が作ってくれたブランコが大好きでした。
この砂場は子供の成長や変化に合わせて、キッチンガーデンや、ハーブガーデンにすることもできます。庭も子供と一緒に成長し、変化していけるような「余白」を意識しています。庭の機能を固定させず、その時の状況に合わせて変化させ、それを楽しめたらいいですよね。
―幼少期にこんな庭があったら、子供も喜んで遊ぶだろうし、そんな姿を日常的に見られることは親にとっても幸せな時間です。荒谷さんのこちらの庭も素敵ですね。
荒谷さん:リビングから見える自然の景色を活かしたかったので、樹木は桜を1本だけ植えました。あとは、元々そこにある山や川の風景をできるだけ楽しんでもらえるようにしました。
荒谷さん:こちらのキッチンガーデンは、子供と一緒に育てられるような植物を選んでいます。すぐにハーブティーを作れるものばかりです。できるだけ元々そこにある自然を感じられるようなデザインを心がけています。建物を邪魔しないようにコンクリートや石材などのシンプルな素材を使って、植物の魅力を最大限に活かしたいと思っています。
―改めて庭の奥深さが伝わってきました。特に「庭育」という観点は、子供はもちろん大人の心も育むメッセージだと感じました。
宮本さん:庭は子供にとって「いちばん安全で身近な自然」と言えます。五感をフルに使って過ごす時間はとても有意義なもの。大人としても子供がのびのびと庭と共存しながら成長してくれることは嬉しいですよね。例えばこの庭は、子供が飛び出していかないように、柵を立て、ブラックベリーを這わせています。ベリーをほおばりながら遊んでもらいたくって……。安全に遊びながら、自分で育てた植物を味覚で楽しむこともできるプランです。
宮本さん:先ほどのブランコは、子供が大きくなってブランコで遊ばなくなったら、バラを這わせてアーチをつくれるようにしました。かちっとつくり込むのではなく自由な発想で、目的や用途をひとつに絞らないように工夫をする。手入れをすることで庭は変化し続け、長く共に過ごすことができます。
これは、芝生のベンチの中にファイヤーピットをつくった庭です。みんなで焚き火を囲むこともできるし、バーベキューも可能です。